瞑想が明らかにする
「今」「ここ」に
存在している私
武笠綾子体験録 #01

2022.03.14
瞑想が明らかにする<br>「今」「ここ」に<br>存在している私<br>武笠綾子体験録 #01

それは水面の揺らぎ。まぶたの裏側に焼き付いた太陽の光。まばゆいブルー。やすらぎ。強烈に湧き上がる歓喜。

 

3月、THINGS THAT MATTERで新たに発表したSENSE6のお洋服のテーマは、「meditative...(瞑想)」だ。わたしが瞑想をしたときに現れるイメージをオリジナルのプリントに落とし込み、皮膚の輪郭が溶け出すような心地よさを透け感のある素材で表現した。

 

 

わたしが瞑想を始めたのは2年ほど前のこと。最初は人から勧められたのだが、今では生活を構成する重要な要素の一つになっている。いつも行なっているのは、宇宙と地球の中心を行き来するイメージを使った誘導瞑想だ。

 

それまでわたしは、日常的にただひたすら考えて、考えて、頭を動かしてきたけれど、瞑想をすることで自分の中に空洞ができて、物事をよりクリアに見ることができるようになった気がする。

 

ただ、呼吸に集中して、魂と向き合う瞑想。何も考えない、静かな時間を持つことは自分を労わることにもつながる。忙しさに追われる日々の中でも、自分のために、10分でも15分でもいいから時間をつくることは、きっと思った以上に大きな効果を人生の中にもたらす。「SENSE6」のストーリーを通じて、この瞑想というものが持つ力をどうしても発信したかった。

 

 

 

不思議なもので、一つの大きな発見があって、そこから心の赴くままに動いていると、関連する情報や出来事が向こうから舞い込んできてくれることがある。

 

Medichaについて知ったのも不思議な巡り合わせだった。Medichaは南青山にスタジオを構え、非日常な空間での瞑想体験を提供する施設だ。何かコラボレーションができないだろうか、と思い連絡すると、快くお返事をいただけて、Medichaの空間を使った体験型のインスタレーションと、お洋服の展示を実施することが決まった。

 

わたしもMedichaでの瞑想を2度体験したが、それは心の中に余白を持つことの大切さを、あらためて思い起こさせるものだった。自分が家で日常的に行う瞑想とは違って、Medichaでは空間を使ったさまざまな仕掛けにより、非日常の中に放り込まれる心地よさがある。

 

 

まず、「Tune In」という光あふれる真っ白な部屋と、「Open Up」という星空をイメージさせる真っ暗な部屋を行き来し、自律神経を整える。行き来するタイミングは、自分の体が心地よいと感じるペースでいいと説明を受けた。

 

わたしはどちらかというと光の部屋の方が好きだった。これほどまでに明るい場所というのは、日常の中ではなかなかお目にかかることはない。太陽を見つめるのとはまた違う、光そのものの内部に没入する感じ。部屋の中にはずっと鳩尾に響くような音が流れていて、まるで生まれる前の母の胎内とはこんな感じだったのではと思わせられるほど、超常的なエネルギーを感じる。どこかで聞いた音なのかは思い出せないけれど、不思議と懐かしさを覚える波長。皮膚に音が染み込み、体全体が内側から喜んでいるのがわかる。

 

 

暗い部屋に移動すると、瞼の裏にはまだ光が焼き付いていて、同じ存在の別の側面を体験しているような気にさせられる。天井には星を思わせる閃きがあって、ただゆったりと、世界ぜんぶが寝静まった夜のような暗闇に抱かれる。

 

光と闇、どちらも生きる上では欠かせないもので、それが正しく相互に作用することで、魂は覚醒していく。体が熱を帯び、自分が持つ感覚の全てが刺激されていく。人間が持っている感覚は絶対に「五感」の5つだけではないし、一つの感覚に一つの役割しかないわけでもないのだ、ということに唐突に気づく。本来、人間はたぶん、目で聞いて耳で見て、肌で味わう生き物なのだ。

 

 

続いて、3つ目のステップは「Shift」。ここで音声ガイダンスを聴きながら誘導瞑想を体験する。オーディオガイダンスは6つの種類があって、瞑想への親しみの度合いや、その時のモチベーションで選ぶことができる。

 

アーユルヴェーダのオイルの香りを嗅ぎ、気持ちを落ち着け、整えていく。自分の魂が内側へ、内側へ──同時に、肉体を超えて限りなく外側へ、外側へと霧散し、宇宙と一体になっていくような安らぎを覚える。終わる頃には、自分の中がすっかり空っぽになって、大きな空洞ができていることに気づく。心地よい疲れ。本当は、自分はこれほどまでに自由で身軽だったのだという驚き。

 

 

  

最後、4つ目のステップは「Align」。これまでの瞑想体験をさらに自分の中に落とし込み、染み込ませるための総括となる場だ。自分で選んだ茶器で煎茶を入れ、線香の香りを感じながらゆっくりと体験を振り返る。

 

いったい、瞑想とはなんだろう。人間はいつだって目的に向かって進んでいく生き物だ。目的を達成するために時間を区切り、お金を稼ぎ(お金を稼ぐことは目的にもなりうる)、今ここではない「どこか」を夢見ながら生きている。

 

でも、瞑想が明らかにするのは、「今」「ここ」に存在しているわたしだ。時間も超越し、肉体も超越し、宇宙が発する周波数に感応するわたし。宇宙そのものであるわたし。ただ素直に生きて、息を吸って、吐いているだけで満たされているわたし。

 

瞑想とは特殊な人だけがする特殊な体験ではない。食べることや、眠ること、装うこと、誰かを愛することと同じく、瞑想もまた、生きるために欠かせない営為なのだと、改めて思う。

 

 

 

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