MY SENSE #03
文筆家
伊藤亜和

2025.05.27
<br>MY SENSE #03 <br>文筆家<br> 伊藤亜和

拒絶しないという選択——
伊藤亜和が見つめる、関係と感覚のかたち

纏うものを変えることで、自分の輪郭が少し変わることがある。
伊藤亜和さんの歩みは、どこか即興的で、感覚的な選択の連続に見える。それでも彼女は出会いのひとつひとつに応え、時に傷つきながらも、自分の言葉を見つけてきた。
今回の対話では、彼女がなぜ「拒絶しない」生き方を選び続けるのか。関係と感覚、そのあいだにある小さな選択をたどっていく。

「バニーガール」という仮面


――ご経歴について、改めて教えていただけますか?

伊藤:2019年度に学習院大学を卒業して、そこから去年まではフリーター。23から27歳まではフラフラとしていましたね。そして2年ほど前にちょこちょこ書いていたものが突然Twitterでバズって、そこから連載などのお仕事をいただくようになり、今に至っています。


――学生時代から、色々なアルバイトをされていたんですよね。

伊藤:大学在学中からバニーガールのお店でバイトをしていたのですが、他に掛け持ちで焼き鳥屋さんやケーキ屋さんでも働いたんですが、卒業後も一番長く続けた職場でしたね。


――いわゆる、あのバニースーツを着て?

伊藤:そうです。でも案外すぐ慣れるんですよ。2日もすれば、自分がハイレグを着ていることなんて頭の片隅にもなくなります。元々人と話すのが苦手だったので、その練習をしようと思って働き始めて、働きながら他愛のない会話をそれなりにできるようになったと思うんです。ただその衣装がバニーだったおかげでバニーを着ないと人と喋れない。新しい人格なんて言ったら大げさですけど、人と話すためのスイッチがバニースーツに宿った感じがあります。

書くことで「誤解を解く」


――書くことはもともとお好きだったんですか?

伊藤:書くことに人一倍愛着があるというわけでもないし、作家になろうと思いながら生きてきたわけでも全然ない。それがある日、ふと仕事が来た。ずっと「自分がここにいる」ことを誰かに知ってほしいという気持ちはあったけれど、何をしたらいいのか分からなかった。だから「これが見たい」と言ってもらえたことで、すごく安心できました。


――書くことに、居場所を感じるようになったと。

伊藤:そうですね。私って見た目もあって、誤解されることが多いんです。喋るのも得意じゃないし、でも何も話さないともっと誤解されてしまう。だからこうやって言葉にすることで、ずっと誤解を解き続けています。なにか大きな使命を背負っているとかではなく、ただ自分の存在を確かめているんだと思います。

「拒絶しない」という感覚のかたち


――今回のテーマにちなんで、大切にしている「感覚」についてお聞きしたいです。

伊藤:「拒絶しない」ことですね。大学を出てから、本当にいろんな人と関わってきました。運良くいいところに、運悪く変なところに連れて行かれてしまったことも。勿論危険な目に遭わないように行動しないといけないので、部分的に拒否することはあるけれど、その人全体を拒否しないという考えは今につながっていると思います。泥ごと捨てるのではなく、ザルで濾して、その中からキラキラしたところを拾うみたいに。


――拒絶してしまう方が楽に感じることもありませんか。

伊藤:私は「人を嫌いになる」ってことがないんです。すこし情けない動機ですが、「自分が嫌われたくないから人のことも嫌いにならない」のだと思います。人は他人の自分と違うところに嫌ってなるじゃないですか。私は違うところを見つけるとすごい面白くなっちゃうんです。80の苦手な部分と20の観察したい部分があったら、どうしてもその20が欲しくなってしまう。なので、どうしたらダメージを受けずに20にフォーカスしていけるかを考えます。そして私はおべっかを使ったり機嫌を良くしたりして人に好かれるっていうことは到底できそうにないと、早い段階で気づいたので、そこからはとにかく正直に喋るしかないと思っています。


――その姿勢が、多くの人に受け入れられている理由かもしれません。

伊藤:嬉しいです。でも私ができないから選んだ道なんです。全員に優しく、とは言えないけど、自分の世界から追い出すことはしない。どっかの誰かは私を嫌っているかもしれないけど、私の世界の中にはまだちゃんといて。そして、私たちには知識も言葉もあり、努力をすれば品性だって身につけることができる。だからこそ素直に言葉にするというのは、単に毒舌に、露悪的な言い方になることではないと思っています。せっかくいろんな言い方や表現の仕方があるのだから、それを使って丁寧に伝えていきたい。誰かを刺すような言葉で『これが真実だ』と叫ぶよりも、思いやりと知性の上で選び取った言葉で表現すること、中身がどうであれ、それが真実であってほしいし、私にとっての「正直さ」だと思います。


泥の中から、光を掬い出す。そうして心を守りながらも、他者と関わり続けてきた伊藤亜和さんの言葉には、感覚を「纏う」しなやかさがあった。傷つくことも、誤解されることもある。けれど80に勝つ20の面白さに目を向ける、その営みが彼女の表現を支えている。
「正直に喋るしかない」その言葉の奥にあるのは、違いを切り捨てないという、ひとつのやさしさだった。


伊藤亜和
文筆家
横浜市出身。学習院大学文学部フランス語圏文化学科卒。
noteに投稿した「パパと私」で注目を集め、2024年に『存在の耐えられない愛おしさ』、『アワヨンベは大丈夫』、2025年4月に『わたしの言ってること、わかりますか。』を刊行。
@awaito_


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