淡の間と武笠綾子の感覚問答 #08
金星とヴィーナスと私編 <後編>

2023.12.01
淡の間と武笠綾子の感覚問答 #08<BR> 金星とヴィーナスと私編 <後編>

街路樹が金色に染まり、程なくして散る。そして入れ替わるように色とりどりに輝く電飾の光が溢れる季節。THINGS THAT MATTERのデザイナー武笠綾子による新しいコレクションことSENSEは、街の空気が金色に輝く季節に向けて ”能動的” で多面的な女性性を表現したピースとして、そして内なる女性性の神話へと捧げるべく「VENUS」と名を冠した。



デザイナー本人の幼少期の記憶に根付く”女神”との出会いや、その象徴から導かれたメッセージなど、内に秘めた神話を辿るためのインタビューの後編をお届けします。




THINGS THAT MATTER デザイナー武笠綾子
インタビュー、文 淡の間







淡の間:内なる神話と言えば、だけど。例えば優しい人とか、オーラのある人とか、あるいは憧れの人のことを『神様みたい』とか言ったりすることってないですか?

武笠:あるっちゃありますね。

淡の間:ね。でも、ギリシャ神話にしても日本書記にしても、神話の世界の神様たちって、私たち以上に(笑)欲深くて、罪深くて、汚いことも色々しているのに崇拝の対象になるって不思議だよね。これはあくまで多神教的な世界観に限った話だけど。

武笠:神様って完璧な存在だと思ってたよ。

淡の間:神話のモチーフについて話すときは、やっぱりユング(心理学者)の神話的元型の話をしたいんだけどお話ししてもいいですか?

武笠:いいですよ。

淡の間:じゃあ、例えば。「なんとなくピンとくる」っていう感覚が実際の出来事に繋がっていたりとか、誰かのことを考えていたらその人から連絡がたまたま来たりとか、連続して同じようなモチーフを見たり聞いたりするとか、そういう経験はありますか?

武笠:ありますね。


淡の間:ですよね。もしくは、女性らしさとか”女神”っていうキーワードを聞いた時になんとなく連想するイメージとか人物とか出来事とか、具体的じゃなくても何かありませんか?

武笠:うん、ありますね。それこそ、ボッティチェッリのこととかね。(※ボッティチェッリの絵画「ヴィーナス誕生」のこと)

淡の間:そうそう。キーワードを通してなんとなく浮かんでくることとかありますよね。すごい簡単に言うとそれが心理学者のユングが言うところの「集合無意識」って言うもので、それは武笠さんだけじゃなくて”みんな”で共有している意識のクラウドみたいなものなんだけど、みんなで共有しているからこそ「たまたま」同じことを考えている人と「たまたま」繋がったり、同じイメージを同じクラウドの中で共有したり連想したりするから大勢の人にとっての”女神性”みたいなイメージが共通して社会的に投影されることがあるのね。

武笠:うーん、なるほど。

淡の間:それで、私たち人類が共有していると言われている「集合無意識」について言うと、それらには数千年に至って積み重なった記憶やイメージやあるいは神話からのモチーフや物語性みたいなものが集約されていて、結果、私たちの現実社会の中の出来事や象徴や実在の人物、実際の事象にも投影されているって話なんだけど。

武笠:うん。

淡の間:その「集合無意識」の根底にあるのが神話の世界の神様のエピソードや性格って言われていて、私が西洋占星術のリーディングをするときも神話のモチーフからの影響がその人のチャートの中でどんな風に投影されているかを探ったりするんです。簡単に言うと個人のホロスコープチャートの中に「積み重ねられた集合無意識」からの影響があるとしたら、そこに潜む神話や自分の中に潜む金星の女神が求めることは人それぞれ違っているって話・・・伝わっているかな?

武笠:うんうん、伝わってるよ。

淡の間:よかった。つまり個人のホロスコープチャートを見た時に、どのハウスのどのサインに、どんなアスペクト(※星と星との関係性のこと)が現れているかを見れば、その人の内なる神話が立ち上がってくるってことなんだよね。そこから性格や運命への影響を探っていくの。

武笠:つまり、私(武笠)の中にも潜在意識の中に潜む神話、金星的な影響が存在しているってことですよね。

淡の間:そうです!その中の1パーツが、武笠さんの中にある金星の女神の物語ってこと。

武笠:なるほど!しかも、金星は特に(武笠さんの太陽星座である)牡牛座の支配星で関係の深い天体だから、影響も強くなるってことかな?

淡の間:簡単に言えばそう言うこと!

武笠:なるほどね!

淡の間:あとは、金星、つまりヴィーナスって大変美しい神様と言われるけど、特に愛情や性、美に関しては欲深い神様でもあって。出自も含めて彼女の奔放な愛や性生活の話とか、恋愛模様のエピソードなんかはゴシップニュースやSNSを見ているとそのまんま世間の集合無意識に投影されているというか・・・いつの時代も、ヴィーナスやミューズって呼ばれるような人は男女問わず美しく人の注目を集める代償がその分大きかったりするんだよね。

武笠:そうなんだ。

淡の間:あとは、何を持って”美”とするかと言うのも当然人それぞれなんだけど、知らないうちにイメージが刷り込まれてしまうことも時代性や集合無意識的な投影が大きいですよね。流行りの顔とか、メイクやファッションも。自然と求めるものが共通していくとか、時代が回っていくのも不思議。

武笠:昔言われたファッションリーダーとか、カリスマとか、今で言うとインフルエンサーみたいな人たちの影響力とか?

淡の間:そうそう。誰かが着ているものが流行ったり売れたり、時代のブームを作ったりするのもある意味では金星的な影響力が強いというか、そう言う側面があるね。ファッションは非常に金星的なものだなあと感じます。むしろそういう影響がなければ、というか。

武笠:そうだねー、私が幼少期から影響受けてきた感覚ってうまく言えないけど、すごく金星的だと思った。パリコレとかもさ。

淡の間:まさに。注目を惹き付けてやまない才能は誰でも持てるものじゃないけれど、注目を集めすぎてしまうのも問題だよね。芸能人の不倫とかゴシップなんかはさ、特に。行き過ぎたファンダムや誹謗中傷の原因とかも結局そこにある気がする。捻じ曲がった愛情というか…


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淡の間:今回のコレクション(SENSE)は女性性がテーマということで、それには幼少期の記憶が大きいという話は前半のインタビューでも伺いましたが。デザイナーの武笠さんにとっての”女性性”についてもう少し詳しく聞いてもいいですか?

武笠:そうですね、何から話そうかな。

淡の間:じゃあ、きっと影響が大きいであろうお母さんについて聞かせてください。武笠さんの女性性に影響を与えたお母さんってどんな女性でしたか?


武笠:そうですね…まず、すごくお洒落な人だったと思います。小さい頃から一緒に洋服を縫ったりしたな。裁縫を教えてくれたのも母。いつも笑っていて包容力があって、思いやりのある人。父から深く愛されていることを自覚していて、その愛をしっかり受け止めていたし、さらに周囲にその幸せを循環させていた人。

淡の間:素敵な話ですね。

武笠:はい(笑)

淡の間:では、今回のSENSEでお母さんとのイメージが現れたアイテムとかありますか?

武笠:そうだなー…そう、ツイードのセットアップとかは幼少期に母の影響でみたパリコレクションの記憶があるかも。




淡の間:なるほどね!

武笠:私にとってのファッションの原点というか華やかな金星的イメージ。


淡の間:あとは、今の武笠さんが憧れる女性像とかロールモデルはいるのですか?

武笠:特定の人がいるわけではないけれど、憧れるのは包容力というか、何かを許容する器が大きくて、しなやかで余白がある人。

淡の間:素敵ですね。私も憧れます、そんな人。


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淡の間:今回のSENSEのテーマそのものというか、ヴィーナスのグラフィックプリントシリーズは可愛いですねー。





武笠:ありがとうございます。私も特に気に入っているのは、プリントのスウェットでMacの画面を起動させているプリントのやつ。Macを立ち上げて、ジャーン、っていう場面。あのグラフィックも私の記憶がベースになっています。私たちの世代にとってはSNSじゃなくてインターネットがリアル以外の世界と繋がるツールだったんだけど、あれは1990年代のMacを通して体験した外側の世界観との出会いを表現したものです。

淡の間:なるほどー、「ジャーン」懐かしいですね(笑)

武笠:もはやなんのことだか分からない人がいるだろうね(笑)

淡の間:他にも、せっかくだからオススメを教えてください。

武笠:オススメね(笑)そうだなー、今回のSENSEはヴィーナスというテーマで多面的な女性性にアプローチしたコレクションなので、一見わかりやすい女性的なモチーフの服も多いのですが、あえてアンバランスなレイヤーコーデを楽しんでほしいです。

グラフィックスウェットとメタリックのスカートを合わせたり、真っ赤なツイードのセットアップ、特にミニスカート!あえて下にボトムを合わせたり、クラシックなジャケットにデニムを合わせるとか、上品にまとまりすぎないように・・・とか。現代版のヴィーナスみたいな。

淡の間:素敵ですね。この光沢感も。

武笠:季節柄、ギラギラしてますね。

淡の間:あと、これまでのTTMは一枚でコーディネートが完結するインパクトの大きいアイテムが多い印象だったのですが、今回の『VENUS』ではルックのレイヤードも印象的でした。

武笠:そうですね。色々取り入れて、重ねて楽しんでもらえたらと。チュールのアイテムも秋冬だから透け感のある素材は寒そうかな?と控えずに重ねてほしいです。例えばトラックジャージーのシリーズもシルエットが綺麗だから普段はカジュアルが苦手な人でも取り入れてみてほしいですね。それこそ、チュールに合わせると可愛いんじゃないかなって。

淡の間:いろんな女神たちが喜びますね。

武笠:そうだね(笑)


 

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