TTM対話録 #03
金井工芸
金井志人さん

2022.06.09
TTM対話録 #03<br>金井工芸<br>金井志人さん

奄美大島の移りゆく空の色、 身体に纏わりつくような湿度、夜風の匂いが未だ余韻のようにずっと残っている。島の自然と歴史、風土に畏敬の念を抱きながら伝統工芸を現代へと伝承しようと試みる金井工芸の金井志人氏とTHINGS THAT MATTER ディレクター 武笠綾子、2人のセッションのようなインタビューから見えてくるのは「物づくり」を通して見えてくる自己対峙の向こう側。

 

(インタビュアー 淡の間)

▲主原料に使われるのはテーチ木と呼ばれる車輪梅の木

 

ーまずは武笠さんと金井さんの出会い、何がきっかけで奄美大島での制作をすることに行き着いたのかを聞いてみたいです。

 

武笠:まず今回のSENSEテーマはアーシング、グラウンディングというコンセプトなのですが、自分自身が地球が剥き出しになっているような自然に触れた時に自分のエネルギーと地球のエネルギーが循環していくような体験からそれを洋服で表現できないかということからインスピレーションを受けまして『地』や土着的なものについて関心を持ったのが始まりでした。それからずっと気になっていた素敵な染色屋さんがあるということで、金井さんを紹介していただき、ご縁が繋がりました。

金井工芸さんが展開している現地の自然を活用した泥染という方法については今まで見たことがない初めての技法でワクワクしながら進めていったのですが、実際にそのサンプルが上がってきたときの一点一点の風合いや、グラデーション、色の出方などのニュアンスには凄くグッときて。元々テーマにしたいと思っていた地球と人間との循環みたいなものがそのまま具現化されているような感覚を覚えて高揚したのを覚えています。

 

ー金井工芸さんには様々なファッションブランドとか、世界中のメゾンからたくさんのオファーがあると思うんですけど、その中でも例えばここと一緒に仕事がしたいとか、一緒に取り組みがしたいと思うきっかけや条件、インスピレーションなどはあるのでしょうか?

 

金井:はい、まず僕らのやっているその染色については奄美大島で古くから存在している技法なのですが、僕が携わってからはまだ20年経たないぐらいです。それからいろんな経験させてもらって一番感じているのが、自分らが主体で染めているんじゃないということ。材料とか風土的なものなどの環境が整っているからこそできることなので、“環境に染めさせてもらっている“というような感覚が強いんですね。なので、僕らが選ぶっていう判断はあんまり自分の中ではなくて、例えばタイミングだとか、縁というか、そういった流れの中で自然と成立していくものとそうでないものがありますし、その辺りは流れに委ねています。

 

ーなるほど。縁と流れみたいなものの中にある、まるでセッションのようですね。

 

金井:そうですね。例えばアパレルを筆頭にいろんな業種と関わることが多いんですけど、対企業と製作をする上で重要なのがスケジュール管理という部分ですが、そこに対しては自然が相手であるとどうしてもコントロール出来ないことが多いんです。そして、僕らも100%コントロールできると思ってないです。そうなると、そういった自然の性質や風土の特徴を最初に開示して先方にはそこを理解してもらう。その上でやりとりしながらいかにお互いの距離感を縮められるかというのが、どちらかというと僕は重要かなと思っています。

 

 ▲染料に使うための車輪梅の木をチップ状に粉砕する

 

武笠:なるほど。その点においては私たちも奄美大島に着いた瞬間からすごく感じていました。雲の流れや天候、自然の動きがまったく予想できない中で、日々自然と共に作業されるじゃないですか。コントロールできないもの(自然)に対してどうやってコンディションを整えていったり、技術だけではどうしようもならない部分にどのように向き合われているんだろうと思っていました。金井さんから見た染色に対してのこととか、奄美大島に対しての視点などを伺っても良いですか?

 

金井:はい。奄美大島と染色っていう観点について言うと、環境的にはすごく適していると思います。高温多湿で本州とは生態も違うので島独自の植物から色を採取するっていうこともですし、水が豊富だからこそ泥染めができたり、地下水が使えたりという点ですね。でも材料が揃ってるからといってもコントロールできない部分があります。あとは、流れに委ねる精神というものがこの島(奄美大島)で育まれるものだと思います。ここ最近は少ないんですけど、元々災害の多い、台風とかが頻繁に通るところで。(染色の)工房とかも見てもらって分かったと思うんですけど、あちこち建物が継ぎはぎのような状態なのは台風が来るたびに屋根が飛んで自分らで修理してっていうのを繰り返しているんですね。その時に、昔の人らもこうやって必死に繋いできたんだろうなあと思うんです。現代の方がそういった貪欲さは少ないと思う。島の文化としては基本的に自然崇拝なんです。根っこがアニミズム※だったりとかするので、そこはやっぱり強いですね。例えば、迂闊に山に入らない、それはハブがいるから。そういうものがあるからこそ山が守られる。あとは奄美大島では旧暦の方が強くて、それでお祭りごとや季節の行事ごととかをやるんです。旧正月やお盆の日程も毎年旧暦仕様です。旧暦というのは月の歴ですが、それはやはり海が近いので、月が影響している潮の満ち欠けとかが参考になっています。島には染色だけでなく昔から漁の文化もありますが、基本的なスタンスが自然への畏れという姿勢と共にあるんじゃないかなと思います。

 

 ▲泥染を行う泥田 金井工芸が所在する地域では鉄分が豊富な泥質が採取できる 染料のタンニンに重なると化学反応を起こし美しく発色する

ー興味深いです。例えば、自分自身との信頼関係を築くだとか、自分の人生の責任を他人に委ねないで自分の軸で生きていくことを大切にするとか、一人一人持ち合わせている霊性(スピリチュアリティ)と現実世界で生きていくリアリズム的な視点の両方を育んでいくことが大切だと思ってるんですけれど、奄美大島に居ると自然崇拝や月の暦を文化として体感しながら生きていくわけだから、自ずと自分の中の霊性や畏れるべき大きな存在みたいなものを意識せざるを得ないと思うんです。金井さんは東京と奄美大島を行き来されている方なので、そういう現実的な部分と自身の生まれ育ったルーツにまつわる感覚的な部分のバランスがすごく優れている方だなという印象なのですが、その辺りはご自身でどう思われますか?

 

金井:今は専門学校があるんですけど、だいたい高校卒業すると八割九割島外に出ることが多い。僕もその類で、東京へ進学してからまたUターンで戻ってきたとき、漸くその俯瞰的な視点が生まれました。今まで内からしか島を観ていないから、外に出て特異性っていうのを初めて実感できるわけですよ。また話が戻って染色っていう分野でも僕らにとって泥染めはデフォルトなんですけど、いわゆる世間一般的な染め方とはやり方が全然違うので、その点において逆に衝撃を受けるという立ち位置なんです。更にそういった様々な文化の違い等を感じていく中で『何故、奄美はこうなのか』と言うことを比較しながら考えざるを得なくなってくるんですよ。そうなった時に、独自の歴史的背景とか、自然との関係性などを紐解かなければこの仕事をちゃんと理解出来ないぞっていう時期がありまして。今はどうだろう?若いときは島から早く出たいとか、そういった欲求などで動くことが多かったんですけど、そもそもそんな感情すらも全部包括しているような特殊な島なので、下手に擦り合わせていくのはちょっと違うなと。今は、すでにあるものだとか元々の技術や文化に対してどのように接していけるのか、どのように『接点』を作れるのかというのが染めにおける本質的な役割かなと思っています。例えば今回一緒に製作したコレクションが生まれるきっかけ、接点は“色“が作ったわけですよね。僕らは形あるものを作れないんですが、“色“と言うのは形がないものです。だから、例えば武笠さんが作ってる洋服とか、何か落とし込む対象や目的がなければそこに存在しないんです。泥染のベースとしては、大島紬を染めると言う目的があって存在しているものなんですけど、そういった面で考えると、物の形や対象次第では様々な方向に『接点』をつくりやすい職業だと思うようになりました。

 ▲窓際には手作業で染色を行うための窯が並ぶ
 

ー染色業は接点を作りやすい仕事というお話、興味深いです。では次に金井さんのルーツといいますか、思春期も含めて影響を受けたモノって何かあるんでしょうか?高校卒業してから島外の世界に出ようとしたきっかけが気になります。

 

金井:僕は音楽ですね。もともと島自体が音楽盛んで島唄や行事毎で踊るだとかそういった文化と共にあるんですけど、そういった方向ではなくて、自分らの世代的に好きな音楽をとりあえず追っかけたかったり、そこに身を投じてみたかった。音楽系の学校にも通ってましたし、外部とのつながりは音楽との出会いが影響として強いと思います。そして音楽とアートは密接な関係があって…若い時に影響を受けて色々掘ってたと思います。

 

ーその時の体験がやはり今に生かされているというか、その時の体験あってこその現在の金井さんという感じ、でしょうか。

 

金井:その体験がなかったらできてないですね。一番は解釈の仕方です。(音楽と染色は)似てるなあっていう部分があって。その理由は、どちらも形を有してないということ。例えば、先ほど色の話を挙げましたが、物理的な対象がなければ色は存在しない。音だけでは音楽にはなれなくて、アンサンブルになって初めて成立する。あとはどんどん新しい音楽ができていくみたいに、新しい伝統も生まれてもいいよなあと思うのですが。

 

ー今、金井さんが染色そのものを『形のないもの』と表現されたことがとても響いています。それをどう解釈して表現していくかは、1回別の手順を踏んでこそオリジナリティが産まれていくのですね。

 

金井:そうですね。金井工芸は父が始めて、僕があとで入るっていう形だったんですが当時から職人さんがいて、(職人さんと)同じ仕事を僕がすぐにできるわけでもないんですけど、動きを見ていると“突き詰めていく作業“というのが見えてくるんですよ。いわゆる職人の美学みたいなところもあるんですけど、逆にそういった技術的なところは凄いんですけど、然るべきところにちゃんと活かされているかという点ではもっと違う土俵みたいなものがあったほうがいいのではないかと思いましたね。例えば、今皆さんが着ているこの洋服も、着物も、着る行為という点においては全く変わらないです。ただ、時代が変われば着るものも変わっていくので、変化に適応した上で職人の技術をどう活かしていくべきかとずっと考えています。

 

武笠:その点では、金井さんが島の外に出て体験されたことっていうのが、職人技術や島の文化みたいなものに対して化学反応を起こして現在の金井工芸に至るきっかけになったというか、エッセンスになったわけですよね。その点が言語化できない興味深さに繋がっているんだと思って。

 

金井:そうですね。しかしその実験的な精神っていうのは、おそらく先人たちも泥染めなり、大島紬を作ってきた過程で行っていたことだと思いますので、そこと同じスタンスにならないと工芸として続けていけないとは思います。まあ、どうしても保守的になっちゃうんですけど。でも、時代が変われば着るものが変わったりとかするのに、制作側が変わらないというのは逆に不自然だなと。変わっていく方が自然なような気がする。良いところを残しつつ変わって行くことでより面白くなる。そこが可能性だと思います。

▲窯の中に染料を微調整しながら流し入れる その分量は職人の肌感覚によるもの

 

ー変わらない部分を残しつつ変わっていくことって凄く難しいと思うんですけど、金井さんの絶妙なバランス感覚を感じました。例えば私は地方出身で常々感じていることですが、土着的な文化が強いところって良くも悪くも閉鎖的なんですよね。空気感というか、変化に対して抵抗があるし、新しく入ってくるものに対しても身構えがちなんです。ただ金井さんを拝見しているとその辺りも巻き込みながらうまく融合させている印象がありますが、実際に何か気をつけている事、意識されていることはありますか?

 

金井:まず代々続いてきた産業として考えると、着物ではなく洋服に対して染色を施すことに対しても最初は審議にかけられるというか、これまで続けてきた価値を落とすんじゃないかと、新しい動きに対してすごく距離感を持った意見っていうのが多かったです。ただ、さっき言ったように続けていくための前向きな変化に対するスタンスを考えると、それを乗り越えなければ自分がやる意味もないだろうということで色々やらさせてもらいました。あとは外部からくるものに対して閉鎖的な部分とかは確かにありますが、逆に島の人が中から自発的に変化を起こさないと外の人が触ったところで動かないと思ってます。着物自体が使用頻度が少ない生活スタイルになっているので、文化的に残したい気持ちはあるんですけど、現代の生活に適した形で技術を落とし込める舞台っていうのを作らなきゃっていう意識がありましたから、当然反対とかもあったけど、一番はやっぱり好奇心。今までなかった物とかを作れるとか、その次の動きを作りたいという思いがありました。そういった部分は、僕自身が音楽・アートに影響を受けたことが大きいかもしれません。例えば、極端な話、アートや音楽を通して感情を揺さぶられたりとか、人の人生が変わるようなことが起きたりとかするわけじゃないですか。その動きに僕はたぶん感動したんだと思っていて。でも、それは音楽じゃなくても出来る、アートじゃなくても出来るっていう部分がわかってくると、じゃあ染めもそのスタンスで出来れば前向きだと思えて今に至ります。

  

ー興味深いです。ありがとうございます。今、金井さんに連続でご質問に答えていただいたことをディレクターの武笠さんにも聞いてみます。武笠さん自身のルーツとか影響を受けたものは今思えば何だったんでしょう。この業界に進むためのきっかけってなんでしたか?

 

武笠:そうですね、すごくちっちゃい頃からずっとお洋服が好きで、幼稚園の頃に初めて針を持ってお洋服を作ったのは覚えてますね。なんでそんなちっちゃい頃からなりたかったんだろうなっていうのは今も謎のままではありますけど。小学校2年生くらいのときに、テレビでファッションショーをやっているのを見て、そこで凄く衝撃を受けて、そこから絶対デザイナーになると決めてそこから変わらず進み続けている感じなんですけど。なんでそうだったんだろうなっていうのは今もわからないですし、その時たまたま流れたそのファッションショーの映像を見た事も何か意味があるんじゃないかなって今思ってますけど、すごく気になります。わからないですけど、前世の何かの影響で、小さい頃から何か成し遂げたいことが、それが私にとってお洋服だったのか、お洋服を通して何かお伝えすることだったんじゃないかなって思っているので、逆に私は前世のルーツをすごく知りたいと思っているところです。

 

 

 ▲イメージ通りの発色に近づけるため、何度も釜内で洗いを繰り返した製品

 

ー金井さんは自分のルーツのこととか、そういうことを考えたりしますか?

 

金井:何ていうのかな、島にはシャーマン的な人がいるので、そういった存在の中を通してたまにそういった話を聞いて色々考えたりはします。

 

淡の間:何か印象的だったエピソードとかありますか?

 

金井:結構日常的に色々あると思います。先のこと言われたりとかもあったり。本当に人によってそれぞれなんですけど、まだ若い時、何年後に子どもを抱いているよと言われて本当にその年にそうなってたりとか。自分個人だけの身体の健康上の話とかで、それ聞くの忘れたとか思ったことを言われたりとか。ここどう?みたいなのとか。例えば、そういったタイミングとかも、相談事があるから行くみたいな感じでいくと、やっぱり頼ってしまうのであんまりそういう時は行かないです。周りの空気的にそろそろかなと思ってそれで行ったら図星な事言われると。でも、そういったのが不思議なことではなくて文化として当たり前にあるんです。普通にその方に電話でアポとってとか見に行くような感じです。

 

ーそうなんですね!!

 

金井:そうですそうです。

 

武笠:ユタ神様ですか?今回行きたかったんですけど、なかなか時間が取れずに。

 

金井:そこら辺もなんかタイミングみたいなのがあって。予約の電話がかかる時とかからない時があるんですよ。そういったものがやっぱり身近にあるので、何て言うんだろう、分からないものが当たり前に存在する感覚、自然もそうなんですけど、それを受け入れざるを得ないっていうか。

 

ー面白いですね。奄美大島で生まれ育った子どもたち、人々の死生観ってすごく気になりますね。ありがとうございます。あと、金井さんにとってのオススメスポットとか、奄美大島のレコメンドはありますか?

 

金井:観光地や自然遺産もありますけど、場所というよりかやっぱり人が面白いので、1人と繋がるとそこからまた次の場所へと繋がっていきます。だから、携帯とかで調べた情報を参考に色々周れたりもするんですけど、より人との繋がりで導かれるような体験がこの島は起こりやすいんじゃないかなと思います。例えば、うち(金井工芸)に染色体験のお客さんとか来た時に「ご飯どこに食べに行くんですか」みたいな話で紹介するとそこからまた繋がりが出てきたりしますね。あとは自然の肌感覚というか、行事ごと、例えば旧暦でやる伝統行事ですかね。今は新暦の都合に合わせてやるんですけど、豊年祭とか収穫祭みたいなのがあるんです。島の豊年祭の時とかは老若男女夜出て飲んで踊って歌ってみたいな感じで、昔のお祭りってこんな感じなんだろうなみたいな。そういう生きた暦を通して感じられることや、一歩誰かに対して踏み込んでいくと芋づる式に繋がったりするのが面白いと思います。

 

ーありがとうございます。今度金井さんの都合が叶う時に、また同じメンバーで行きたいと思います。

 

金井:是非是非。はい、お待ちしております。

▲藍染の窯に浮かぶのは “藍の華“

 

ーありがとうございます。あと武笠さんにも金井さんにも両方にも聞きたいんですけど、やっぱり二人とも形は違えど作り手なので、そのとき関心のあるものが作ってるものに少なからず投影されると思うんですけど、お二人が今一番興味関心のある事は何でしょう?お聞きしてみたいです。今一番気になることでもいいですし、関心があることを小さいことから大きいことまで何でも大丈夫です。

 

武笠:カルマについて気になります。

 

ーカルマ?

 

武笠:はい。さっきの前世もそうですけれども、自分のことをもっと知りたい時期でして、今ちょっとそこを掘り下げたいなと思ってるところです。金井さんはいかがですか?

 

金井:地方も都市も色々赴くことが多いのですが、そこの土地であるものの必然性みたいな、そういったものとかを見るのが好きなんですよ。例えばこの島で言うと大島紬だったり、他の土地の織物とか、何でそんなやり方なの?って興味を持って最初は見てたんですけど、土地が産んだ必然性みたいなものが工芸品になって何百年とか残るわけじゃないですか。そういったものを見てると自分らが今行っていることの必然性ってなんだろう、この先100年残るかなとか。それぐらいの強度を考えると土地に根ざしているものは本当に強いですよね。どの時期、年代になってもブレがないというか。だから訪れた場所の環境や成り立ちから見えてくるものを参考にしたくて観察とかしますね。

 

 

 

ーお話をお伺いしていると大体1つの話題からどんどん派生して行く流れがあるんですけど、金井さんの話ってとても一貫性があります。まずは音楽やアートにに興味があって、その結果今の染め物という表現活動にいるということを話してくださいましたが、ルーツから現在に至るまでの揺るがない軸みたいなものを感じました。例えば染物も音楽も形のない物っておっしゃってたんですけど、形のないものに命を吹き込むパワーが強いのかなと思って。揺るがないのに流動性があるので、他を拒まずに受け入れる器の広さがあるから、残しながら変化していくことができる稀有な存在なんだと。

 

金井:ああ、そうかも。染めでも音楽でも同じですけど、その対象を通して結果自分と向き合っていくみたいな感じだろうなと思います。いかに長く続けていけるかっていうのが一番大切で、自分にとって染めは長くやりたい仕事だから。

例えば作品作りたいと思っても形から入るんじゃなくて、見えないものというか、コンセプト的なところを一番大切にしている。物を作るってそうじゃないですか。やっぱり技術とか感覚な成熟さも重要だけれど、表に出てこない別の側面があるんですよ。長い目で見て、変わるべき部分とそうでない部分があってこそ色んなことができるようになる。ちょっと質問してもいいですか?それってどっちもあると思うんですけど、ライター的な部分と(淡の間としての)普段の視点と双方の意見としてってことですか?

 

ー私が勝手に金井さんから感じるリーダーシップとか、代表の風格っていうんですかね?そういうものから感じるのは、主語がずっと『僕は』とか『自分は』じゃなくて、もう島全体で、みんなで、っていう全体的な見方をされているので、その辺りの視点ができる方っていうことに興味を持ってしまいました。

 

金井:めっちゃ色々質問したいです。面白い。ありがとうございます。

▲藍は酸化して発色が濃くなっていく 藍色に染まる手を見て、職人は笑う

 

武笠:染めの部分に戻るんですけど、さっき“色は形が無い“っていう風におっしゃってたんですけども、だからこそたくさんの感覚に触れられるきっかけを作れるのかなと。私は初めて染色体験させてもらった時に様々な方向から感覚の刺激がありました。匂いもそうですし、ゴム手袋越しの水の感じとか、音とか、あと泥とか、すごく長い長靴とか、目に映る景色の全部が新鮮で楽しくて…。普段染色に向き合う中で、天候だったり、気温だったり、様々な外的要因がイレギュラーに存在していますよね。その状況に都度適応するためには感覚をフルに使っているんじゃないかなって思っているんですけど、染めている時ってどういった感覚を使うというか、どんなことを考えていますか?

 

金井:そうですね、まあ色々考えるのはもう最初ぐらいで、あとは動きの中で、手を動かしながら考えるようなことが凄い多いです。一番気にしてるというか、配慮しているところは絶対的に一回で出したい色には到達しないのでおおよそ8割くらいとかそこらへんを目安に目指しています。あとは状況によってブレが出てくるので、そこをどのように合わせていくみたいなことなんですけど。あとは一つの工程の中でどれだけ時間をかけれるかですかね。例えば寝かせるとか、一度乾かすとか、色々な行程があるのですが焦って急いだりとかするとそれがそのまま色に出ます。これ(あの)工程飛ばしたなとか。

 

武笠:なるほど、正直ですね。

 

金井:そう、そういった面では自分の状態がそのまま出る部分なので油断できないですね。

 

武笠:三人で体験させてもらったんですけど、出来上がったものを見ると製作した人の性格や雰囲気がそれぞれ詰まっているような感じがしました。エネルギーがこの一着にすごく詰まっていることを感じて、愛着が湧いて。洋服を1着作るにあたっても世の中の流れを意識することはあるのですが、頭でややこしく考えたりちょっと遠回りしてしまうとそのままエネルギーに現れるような感覚があるので先ほどのお話は共感できます。クリエイティブは生ものというか、生き様や状態が素直に反応するものだと思っているのですが、そういう意味では染色も同じだと感じたのでもっと知りたいと更に興味を惹かれました。すごく楽しい体験をありがとうございました!

 

金井:いや、こちらこそです。ありがとうございます。

 

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※アニミズム(英語: animism)とは、生物無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくはが宿っているという考え方。

 

<クレジット・写真>

Portrait:美久璃(mikri)

 

 

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