TTM対話録#13
“Now, Now Here, Nowhere”.
今はどこにもない、
ここにしかない。
俳優 窪塚洋介編

2025.10.16
TTM対話録#13<br>“Now, Now Here, Nowhere”.<br> 今はどこにもない、<br>ここにしかない。 <br>俳優 窪塚洋介編


俳優の窪塚洋介とTHINGS THAT MATTERディレクターの武笠綾子による対話録。惑星の軌道が交差するかのように、運命がぶつかり合った時間軸の答え合わせ。現在と過去と未来の伏線回収を2人の視点から眺めてみよう。


直感


窪塚洋介: 改めまして、よろしくお願いしまーす。

武笠: よろしくお願いいたします。最新作『次元を超える』、最高でした。

窪塚洋介: あれね、ぶっ飛び。全員置いてかれてるっていう。

淡の間:今回の映画の世界観のこと、たまたまですけどわたしたちのコレクションテーマと不思議なくらいリンクしていたんです。そもそも今回どうしてインタビューを受けてくださったんですか?

窪塚洋介: どんな仕事を受けるにあたっても、あえて掘り下げたりせずに直感で選んでいるというのが正直なところです。ほぼ全てそうしているので、自分のその感覚が全てです。

武笠: そうだったんですね。

窪塚洋介: どんな有名な監督の作品でも台本読んだ直感でしか決めないし、生の自分の感覚をとにかく大事にしてるっていうところですかね。

武笠: 光栄なことです、ありがとうございます。

窪塚洋介: (ブランドのシーズンブックを捲りながら)例えば夢で見たちょっと潜在意識の世界だったりとか、陰と陽とかメディテーションとか、パラレルワールドのような世界観、好きな雰囲気です。っていうと俺が嘘ついてるかなぐらい何にも知らずに来てるけど、まあ導かれてるみたいな。なるべくしてなってるっていうか、全部奇跡っていうそのガイドのまんま起こってると思うんで。起こることは 全部奇跡っていうその言葉のまんま。そのことをまた改めて今日ここで、自分の生き方が間違ってないんだなって確認できています。

武笠: ありがとうございます。衣類というと外側に装うものですが、THINGS THAT MATTERは内面の影響に響かせたい、魂と肉体の上に感覚をまとうようなものを作りたいと思って2021年に立ち上げたブランドです。毎度のコレクションテーマのことを「SENSE」と呼んでいますが、今回は「Pre - sent」という世界観で構成しています。「現在(いま)」は過去の自分が与えたプレゼント。今、生きているこの瞬間がまた未来を作っていく。そのことを過去からの贈り物=Presentという意味を込めています。

淡の間: 半年前からこのコンセプトを考えてたので、まさか取材を了承いただけるとは思っていませんでしたし、最新作の内容も知らずに拝見したらこれもまた現在・過去・未来を生き返すっていう構成だったからもう、偶然とはいえ、びっくりしました。

窪塚洋介: 我々のこの目線で見てるとわかりにくいんだけどね。パッて上から見たら「いやそりゃそうだろう」っていう運命のタペストリーができてる。流れに委ねろって言われるのには理由があって、全部ちゃんと整ってて完璧だから信じてやるだけっていうこと。なかなかそれが理解できないこともあるんだけど、こういうことがあると改めて確認できますよね。

武笠: はい、そう思います。




過去


淡の間:私たちはその時々のコンセプトに紐づいた対話を通して、言葉の再解釈をするような時間を「TTM対話録」と称して対談形式でまとめています。今回は窪塚洋介さんに現在と過去と未来に繋がる内容と、ご自身の霊性に関わる質問を用意させてもらいました。

窪塚洋介: はい、どうぞ。

淡の間: ありがとうございます。では、早速質問です。


『過去の自分が一生懸命に生きた経験が、今を生きている自分にとってのプレゼントのように届いたと感じること。過去の経験が今を生きるための贈り物みたいに生かされていると実感したことを教えてください』


窪塚洋介: 一番分かりやすいのはマンションから落っこって大怪我したこと。そして当時頑張ってやってた仕事。例えば過去の出演作で「池袋ウエストゲートパーク」っていう作品がありました。それがネットフリックスっていう便利な動画のサブスクリプションで2023年から放送されるようになったことで、今の新しい世代、Z世代とか、もっと若い子たちが過去の自分を認識してくれるツールになったんですけど、そんなこと遥か昔には想像もしてないし、描いていた未来っていうわけでもない。一生懸命自分なりにやってたことが20数年時空を超えたらたまたま再評価されることになるなんて当時は思わないじゃないですか。けれども確実に過去の頑張りは未来に影響を与えることがあるっていうのを如実に感じました。

武笠:私 バッチリIWGP世代です。

窪塚洋介: ちなみにマンションから落っこっちゃったっていう話は色んなところでよくしてる話ですけど。黒歴史って思ってた時期もあったけど、今はもう武器でしかなくて、何ならその時の自分が乗り越えられないと思った心の高い壁が今の自分を守る最強の壁になっているっていう。

淡の間: 経験をしっかり昇華されているんですね。窪塚さんのようにスクリーンに出て出演作品を残し続けることって、ある種タイムカプセルみたいな感じがします。

窪塚洋介: そうですね。でも、俳優の仕事だけじゃなくて。世の中のこと全部がそうなんだろうな。自分自身の日々の行動や思い、まだ形になってないものも含めて全部が未来を作っていくもののマテリアルとして存在してるから。

武笠:確かに、過去のコレクションを見たときに後から答え合わせをするようなことってあります。

淡の間: 私もありますね。



未来


武笠: 実は、私は以前から窪塚さんのYouTubeチャンネル「今をよくするTV」のファンで。

窪塚洋介: ありがとうございます。

武笠: こちらこそです。YouTubeのタイトルや活動なんかを拝見してると、未来のための今を作っている質の良い生き方を意識しているのが伝わってきます。

淡の間: では、その流れで次の質問をします。


『未来の自分が受け取るプレゼントを用意してるのが今の自分だとしたら、今どのようなことに向き合って生きていますか』


窪塚洋介: そもそも、過去・現在・未来が実は存在しないみたいな考え方もあるじゃないですか。 無限に存在してる時間軸のどの世界線で生きていたいか、選ぶのは自分だということを意識してます。
過去はもう過ぎているから存在してない。未来はまだ来てない。だから過去も未来もない。それじゃあ目の前にあるのは「今」だけだから、全力で今を生きる。今、この瞬間がプレゼントです。もしかしたら今日死んじゃうかもしれない。これが最後の仕事になるかもしれない。でも今を全力で生きていたら別に後悔はない。そんな風に生きていたい。今がバッチリだったらなんだかんだあった過去も全部貴重な経験に変わる。未来へのギフトっていうよりは、今この瞬間がギフトっていう感じです。

武笠:今この瞬間が、ギフト。

窪塚洋介: 日本には「予祝(よ -しゅく)」って考えがあるじゃないですか。あらかじめ祝っておくっていう、あの感覚で生きてる。

武笠:いわゆる引き寄せの法則的な考えに近いんでしょうか。

窪塚洋介: そうですね。なぜかというと、そういう風に振る舞うと実際にそうなるから。すごいチープな言い方したら100億円持ってるように暮らしてると100億円持つことになるあのロジックっていうか、幸せになりたいんじゃなくて幸せに感じられるから幸せになるっていう宇宙法則みたいなものをうまく自分なりに解釈してそれを試しながら毎日生きてるっていう感じ。

淡の間: 先に周波数をその状態にして、潜在意識を錯覚させるみたいな、そういう実験的イメージングをしてるんですか?

窪塚洋介: そうですね。幸せになりたいんじゃなくて、もうすでに至ってる=至福なんで、何が起こっても至福なんですよっていう風な心構えにしておくと、一見マイナスなことが起こったとしてもそれも喜びっていうように逆手に捉えられる。ネガティブなことは反転するとものすごいプラスなことになる。あと、今は“Now” 。“Now Here”で、“今、ここ”じゃないですか。で、文字を繋げてちょっと展開させたら“Nowhere”、どこにもない。結局、今ここはどこにもないっていう。

武笠: 今はここにしかない。

窪塚洋介: そう、今はどこにもない、ここにしかない。




意味


『前世の体験があるとしたら、過去に生きていた自分の記憶に出会ったような、デジャヴ的経験はされたことありますか』


窪塚洋介: 明確にこれが過去生の記憶だなっていうことはないけど、言ったら日々全部そうだと思う。達成できなかった自分が解決しなければいけない問題みたいなものだったり、いわゆるカルマと呼ばれるものを解決するためにここに来てるっていう思考法も一つ、面白いなと思うし。

武笠: 私、そういうことを常に考えちゃうんですよね。

窪塚洋介: 異様にチベットに惹かれる時があったり、ネパールに行きたい、ペルーに行きたい、南米に惹かれるとか、スポット的に気になる国が色々出てくることがあります。昔見た映像からの影響とかもあるんでしょうけど、過去生からの影響ってものがあるならこれもそう言えるのかな。

淡の間: 気になる国との関連性とか、意味もなく考えちゃいますね。

窪塚洋介: 例えば俺は芝居するのが好きで、役者をやってるじゃないですか。それも過去生にそういうことがあったのかもしれない。でも、はっきりそういうのが分かる人じゃないし、本当のことはわかんないから、ロマンとして自分が楽しんでるっていう感じですかね。

淡の間: 私の持論なんですけど、例えば国内でも海外でも、旅行にいっぱい行く人もいればそんなに色々な場所へ行ったことはないけど、同じ場所に何回も繰り返し行くっていうことがあるとするじゃないですか。定期的にいつもここに行くきっかけがあるとか、呼ばれるとか。それを私は過去生の自分の記憶を確かめに行くとか確認しに行くみたいなことだと思っているんですが、どう思いますか。

窪塚洋介: どこかに行くとか呼ばれるみたいなことを強く感じた経験はありますね。例えばエジプトのピラミッド。 子どもの頃からずっと行きたくて。2000キロぐらい車で走りながら都度寄った遺跡とかも懐かしい感じがするなとか、やっと来れたと思ったし。でもまあ本当のことはわかんないから、自分のロマンとして楽しんでるっていうのが強いですかね。これで俺はエジプトのために生きていくんだとかっていうことにはならないし、なるべく意味を求め過ぎないようにしてる。

武笠:神社に行った時とか、呼ばれたとかそう思いませんか。

窪塚洋介: あるけど、意味を考え過ぎない。答えの出ないことを深掘りしていくみたいな、その過程を楽しむためにやってるんだったらいいけど、あまりにも答えを求めすぎると自分の中から答えが出ていっちゃう気がする。魂がどこの星からきた、あっちだとか、こっちだとか、そういうのもどっちでもいいんですよ。自分の人生だから。

武笠: ロマンっていう解釈はいいですね。私には子どもがいるんですが、彼に対していつか過去の人生でもきっと会ってただろうなとか、これから生きていく中で出会う人にも絶対にどっかで何かがあったんだろうなって思ってしまうんです。だからこのイメージをロマンとして解釈するっていうのは良いヒントでした。

窪塚洋介: その感覚は素敵ですよね。前世ではこっちが親だったかな、あるいは兄弟だったかなとか考えたりね。

武笠: そう。そう考えるようにすると、周りの人のことがさらに愛おしくなるんです。




『形のない世界、宇宙、大いなる存在を感じた体験はありますか』


淡の間:窪塚さんが普段から考えている見えない世界だったり、精神世界のことについてはいつ頃からご興味があったんですか?

窪塚洋介: 興味は子どもの頃からあったと思います。目に見えないものとかそういう思想の前に「ドラゴンボール」の世界に出会っちゃってるんで。それこそ「カメハメ波」とか。あれってつまりそういうことですよね。そこから「気」のことを知ったり、目に見えない世界のことを考え始めたりして。お化けとか目に見えない存在ってなんだろう。心も目に見えない、言葉も音も目に見えない、電波も見えないっていうふうに思考がどんどん後付けされてきて。

武笠: はい、はい。

窪塚洋介:それで、目に見える世界と目に見えない世界はどっちも大事なんだなって思ったのが10代の後半。どちらかに偏って生きるっていうのはない。どっちかしかないって思ったら片手落ちだなって。

淡の間:では、そんな窪塚さんが考える最新のスピリチュアリティと言いますか、大いなる存在を感じたエピソードはありますか。

窪塚洋介: そうだね、うーん、自分とは別の存在、大いなる宇宙の流れみたいなものを神と呼ぶのかもしれないし、自分の中に存在している「我」の部分、それのことを言ってるのかもしれないし、なんならそれらが全部 イコールなのかもしれない。見えない大きな存在たちと日々寄り添ってるというか常に一緒にいる。同行者二人じゃないけど一人で歩いてても一人じゃないんだよ。映画で言えば「サイレンス」の、一人で歩いてると思った時でも神はいつも隣にいたんだみたいな感覚。

武笠: なるほど。

窪塚洋介: そういう意味でスピリチュアルというか、大きな存在っていつも一緒にいるものだと思って生きてる。どんなに愚行しててもそこから切り離されることはできないっていつもそう思ってるの。それが俺にとって自分の内側の声を聞くということ。

武笠: 考え方、捉え方一つですね。

窪塚洋介: 本当は起こったことに良いとか悪いとかはなくて、良いことにするのか悪いことにするのかだけだと思うんですよ。自分自身の問題だから。だから何が起こっても良いことと受け止めるようにして生きるってことを一番意識してます。さっきの話と重複するけど、落っこっちゃった、あーやべえなこれ、やっちまったなっていう過去の出来事を逆手に取るまで12年かかったんだけど。それこそが自分の最強の武器になるっていうことが起こりましたよ。

武笠: それもある意味、至福の境地なのかなっていうイメージですか。

窪塚洋介: そう。でも言うはやすしですよ。訓練みたいなもんだから。これ絶対良くなるために起こってるなっていう風に思うことで、

武笠: はい。

窪塚洋介: 怒りがふっと収まったりとか、

武笠: はい。

窪塚洋介: 苦しみがふっと収まったりとかっていうことって経験あると思うんですけど。

武笠: うん。

窪塚洋介: それって思考の練習というか筋トレみたいなもんで。

武笠: はい。

窪塚洋介: 常にそういう風に思考するようにしてたら、全ては大きい流れと共にある出来事の一つ、何が起こっても大丈夫って思えるんじゃないかなと思います。自分の世界にいる人やモノ、全てがメンターなので。

武笠: メンターについていうと、私の場合、パートナーとか子どもとか、自分の周りの特に近い距離にいる人にはそういうふうに感じますね。近い人ほど衝突します。

窪塚洋介: そうだよね。あとは、例えば目の前の人についてどういう人物か知りたかったら、その人が全く関係ないレストランの店員とのやり取りを見ろって言うけど、それよりもその人の一番近い友達3人に会ってみるのがいいと思う。そしたらその4人目がそいつだからっていう話、分かりやすい。やっぱり世界は鏡だと思うんで、すべて。自分が笑えば笑ってくるし、怒れば怒ってくるっていう世界で生きてるから。

武笠:今日窪塚さんにお会いして、お話を伺ったことが私にとって最高のプレゼントで、過去との答え合わせそのもののような時間だと思えています。何よりのギフトです。ありがとうございます。

窪塚洋介: そう?ならよかったです。





窪塚洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。1995年俳優デビュー後、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)の怪演で注目を集め、映画『GO』(2001年)で日本アカデミー賞新人賞および史上最年少での最優秀主演男優賞を受賞。2017年にはマーティン・スコセッシ監督『Silence-沈黙-』でハリウッドデビュー。BBC×Netflix共同制作『Giri/Haji』やWOWOW×ハリウッド共同制作『TOKYO VICE Season2』でも国際的評価を獲得した。近年は『Sin Clock』『スイート・マイホーム』『外道の歌』『フロントライン』などの話題作への出演が続いており、最新作『次元を超える』(豊田利晃監督)は10月17日公開予定。俳優業のほか舞台・音楽・執筆・ブランドプロデュースなど幅広く活動中。


インタビュアー・文 淡の間
写真 齊藤一平
スタイリング 三田真一(KiKi inc.)
ヘアメイク 佐藤修司(botanica make hair)