TTM対話録#12
「食」を通して
「世界」を見る


SUNPEDAL代表 小池陽子
後編

2025.07.28
TTM対話録#12<br>「食」を通して<br>「世界」を見る</p><br>SUNPEDAL代表 小池陽子<br>後編

植物性の材料を用いて多彩な食表現を展開する「SUNPEDAL」の代表・小池陽子の料理に魅せられたTHINGS THAT MATTERデザイナーの武笠綾子。今回は、唯一無二とも言えるそのクリエイティブの源泉を探りに昼下がりのアトリエへ。対話を通して見えてきた彼女の人生哲学。そのレイヤーを前編と後編に分けて紐解く。



武笠 「食べること」って生きることですよね。食生活って如実に身体に出てしまいます。

淡の間 わかる。

小池 そうなんですよね。なんでもそうだと思いますが、作り手のエネルギーって非常に投影されやすいし、特に私の場合は自分が元気かどうかがダイレクトに反映されてしまうから気をつけてます。身につける服やプロダクトに関しても同じ。

淡の間 私もそうですね。そうでないとせっかく来てくださったお客様に良い波動をお届けできないですから。食生活もそうですけど、うまく眠れていないとか、生活習慣にも気をつけないとですね。

小池 究極、会うだけで元気になれるみたいなのが理想ですよね。たまには一人でこもって色々考えちゃうこともあるけど、人に会って色々動いていた方が元気になれたりするし。

淡の間 一人でも良い調子の人がそこにいるだけで場が整うというか、共鳴作用が起こるというか。良くも悪くもご縁とか、引き寄せ的なものってそういう仕組みですよね。同調共鳴的な。さらに、自然と合わなくなったり顔を合わせるだけで喧嘩してしまうような人たちは不協和音が起こっていたりとか。

武笠 わかるー、その感覚

小池 誰かに会うだけで安心するのは、良い波長に整えてもらえるからかな。

淡の間 それこそ今日、小池さんのお料理を食べて、私たち、すごく整いましたもの!

武笠 すごく健やかな気分です。そして、出していただいたメニューが全て、とても綺麗で視覚的にも癒されました。

小池 ありがとうございます。

武笠 小池さんの状態がすごく健やかだから、それを作ったものも当然健やかなエネルギーがあって、それを食べることでわたしたちにもエネルギーが転化されて・・・良い循環ですね。

淡の間 あとは、小池さん自身の考え方が非常にフラットで、爽やかなヴィーガニズムを感じました。色々な考え方がありますが、動物性の食事を選択することについては極端な思想をもつ人もいたりするから。

小池 わかります。私もそういう極端な時期はあったと思います。特にストイックな姿勢でヴィーガンレストランで働いてた時は、人に「お肉ちょっと抜いてみた方がいいよ」とか、そういうことをちょくちょく言ってたと思います。周りの人たちはよくそのまま友達でいてくれたなって思いますけど。当時の私のそういう攻撃的なヴィーガン思想に対して変わらずにいてくれてありがたかった。



武笠 小池さんにもアグレッシブな時期があったんですね!

小池 結構極端な思想でした。居酒屋でもキャベツだけ頼むみたいな。そこで友達も限られちゃったり。割とのめり込んじゃうタイプなんですよ。

淡の間 しかもそう言う指摘って、こっちは相手のためを思って言っていてもある程度の信頼関係がないと難しいというか、相手に伝わりづらいですしね。

小池 例えばヴィーガンを意識しているのを食生活以外にも「動物性のものは控えた方がいいよ」って言うこともあるんだけど伝え方もすごい大事。例えば、動物性レザーのバッグのことをヴィーガン視点では使わないほうがいいよと言う人がいる。けれどもそのバッグは、本人の亡くなった家族が愛用していた大切なものだとしたら、レザーであろうとなかろうと大事に使うべきです。あとは たまたまヴィーガンになったからと言って動物性のものを捨てる必要があるのかなとか考えますね。

淡の間 何がサスティナブルなのか問題は色々ありますよね。レザーの方が長持ちしますし。本人じゃないとわからないこともたくさんありますからね。

小池 そうですね。こっちが外側から見ただけでは分からないことが多いから。昔の私だったら踏み込んで言っていたようなことも、今ではよほどでない限りは控えます。あらゆる背景をじっくり考えて、ある程度の信頼関係を築いてからじゃないと指摘しなくなりました。


淡の間 だからこそ小池さんの料理は強さと優しさが共存しているというか、(本人の)バランスがそのまま投影されている印象でしたが、ちょっと聞いてみたいことがあります!小池さんが好きな味覚を一つ選ぶとしたら?

小池 1つですか?うーん・・・酸味かな?自分が好きっていうのもあるんですけど、よくお客さんから言われる感想に「アクセントにいつも良い酸味を感じる」みたいなことを言われるので。自分が好きだから多めに選んでしまうのかも。 だから酸味かな。

武笠 確かに!先ほどの料理も酸味が印象的でした。

小池 常に「食」を通して驚きを届けたいみたいな。 好奇心を刺激したり、予想外の体験を届けたいと思ってますね、うん。酸味ですね。

淡の間 なるほど!ちょっとここで味覚についての話をしてもいいですか。

小池 ぜひ!

淡の間 人間の舌って、味を感知する機能があるじゃないですか。 甘いとかしょっぱいとか、苦いとか酸っぱいとか。それは味わいとしての体験だけじゃなくて、感情や人生経験的なものと繋がっているとルドルフ・シュタイナーが言っていて。つまりそれは、味わい=人生のあらゆる体験と例えてさまざまな経験を積みながら人間性を高めていくと言うことなんですけど。味覚は唯一、世界と一体化できる感覚器官なんですよ。

小池 面白い!それぞれどんな機能ですか?

淡の間 甘味は優しさ・心地よさ。塩味は意識の目覚め、思考の輪郭。苦味は意志に働きかけて深みを作り、そして酸味は活性化、驚きとリフレッシュ作用なんです。例えば苦いものはできるだけ避けたいし、受け入れるときは意志の力と時間が必要。人生において意志を持って時間をかけて取り組むことって、最近はなんでも簡易的で時短の傾向がありますが大切なことかなと。あとは受け入れることや理解に努めることを「消化する」とか言ったりしますよね。



小池 酸味って驚きなんですね。私は確かに「驚かせたい」って思っているかもしれない。材料を揃えた後に何作ろうかなって考えた時、いつもぼんやりとしたイメージを作りながら最終的に形にしているのですが、味も大事ですけど食感も大切で、クリーミーな中にザクザクしているものを入れたりとか、食感のブレンドやミックス感のバランスが単調にならないように絶妙に考えながら向き合っているかもしれません。あとは、苦みも好きなんですが、苦いものって好き嫌いが分かれるかもしれないけど良いアクセントになります。

淡の間 きっとそのバランス感覚って、小池さんのこれまでの人生経験とか味わった感情の現れというか奥行きというか、そういうものがないと絶対無理だと思うんですね。ずっと安心した環境の中にいる人だったら、それはそれできっと優しい味を作ると思うけど、絶対安定のレールの中にいたわけじゃない小池さんだからこそ面白い飽きない味が作れるんです。 きっと。 小池さん自身が驚いたこと、悲しかったこと、 嬉しかったこと、その全ての奥行きが深ければ深いほど無意識に味わいで表現してて、それがそのまま全部出てる。

武笠 それを考えたら、ものすごく深い人生の体験をしている方なんだと思いました。食べるたびに驚き続けましたもん。

小池 そう言ってもらえるとこれまでの人生の色々が報われるような気がします。人生を平らにしたらみんなそれぞれ幸せなこともしんどかったことも一緒って言いますけど、その年齢でそこまで経験しなくてもいいのにっていうことがあったかもしれません。でも、先に経験しておくと何か起こったことに動じなくなっていくし、誰かから頼られたときとかもどしっと構えていられる。そして今改めてそう言ってもらえて、さらに自分の人生を肯定的に思えるようになりました。 今。

淡の間 よかったです。とっても素敵です、本当に。この話を読んだ人が、いろんな経験を積むことはとても素敵なことだって思えたらいい。職業柄色々な立場の方々の話を聞いてますが、若い人だけじゃないけどみんな臆病なんですよ。とにかく失敗したくない気持ちが強い。

武笠 確かに、誰でもそうですよね。

淡の間 そう。やりたいことはあるし、色々考えているのに、とにかく傷つきたくないんだなぁって思うんですよ。でもね、その人がどんな性格だとしても小池さんの料理に出会う人って言うのは、人生の奥行きを求めてる人なんじゃないかな。制限があることって苦しいだけじゃなくて楽しいし、見えてこなかったことが見えてくるみたいなことを食を通して体験できるから。

武笠 すごく分かる!経験値って大切ですよね。向き合う前はすごく抵抗が強くても、思い切って乗り越えてみると案外大丈夫だったみたいなことってよくある。

小池 未知の味にワクワクしない人は多分サンペダルにはきっと来ないと思う。あとはヴィーガンだけじゃなくてさまざまな理由があって辿り着く人も多いんですよ。それはポジティブなことだけじゃないんですが、例えば心の病を抱えている人。食が好きすぎるあまり摂食障害にかかり、自分に向き合っている人たちがサンペダルのごはんなら食べれるんですって。  白砂糖や小麦を取りたくストイックな食生活でもエナジーボールだったら不安を何も感じずに食べれる唯一のお菓子だと言ってもらえたりもします。



淡の間 とても素敵なお話です。

小池 私はそんなに積極的にSNSやインスタライブで発信をするタイプではないですけど、それでも必要な人たちに届いていることが不思議だし、感動します。

武笠 エネルギーがあれば届くようになってますね。

淡の間 そういえば急ですけど小池さんって、何座ですか?

小池 さそり座です。

淡の間 サソリの星座のマーク(♏️)って、このぐるぐるしたmみたいなところ。ここが輪廻と言うか…螺旋状になってるじゃないですか。 ここが生と死へと葛藤が表現されてるんですよ。そして尻尾の矢は、死への恐怖を乗り越えて新しい世界へと飛んでいく、射手座の矢になる。そんなふうに輪廻転生の様子が描かれているのが蠍座の物語なんです。そこには死生観や自分の生き方の奥行きを表現している。 それが小池さんが持っている深いオーラや奥行きと重なるような気がしました。人のホロスコープを聞いちゃうと先入観が生まれちゃうからなるべく聞かないようにしてるんですけどね。考える余白がなくなるから。

武笠 私も先入観で見ちゃうことあります。「この人〇〇座なんだ〜」みたいな。

淡の間 それってさ、良くも悪くもなんだよね。先ほどの話と繋がってくるんですけど、先にデータを調べ過ぎてしまうと考える余白がなくなって視野が狭くなっちゃうんですよ。 そこがつまらないというか・・

小池 もっと感覚的にかんがえたい?

淡の間 そうそう、感覚をもっと研ぎ澄ませたいと思ってて。

小池 わかります。私も直感は大切にしたいです。



武笠 最後に、小池さんに質問してもいいですか?

小池 ぜひ、どうぞ!

武笠 この間はじめてサンペダルの料理をいただいた時の体験が私にとっては大変な衝撃で。これからはちょっとお肉抜いてみようかなと思えたんですが、実際のところ知識がないと何をどうしたらいいのか難しく感じてしまって。

小池 うん、うん。

武笠 あとは子育て中の食生活も色々考えます。頭ではわかっているけど、忙しい時ほど市販の添加物入りのパンとか咄嗟に食べさせちゃうんですよ。身体には良くないだろうなって思いながら。でも、なるべく健やかな食生活をしたいっていう気持ちはあるのでアドバイスお願いします。

小池 ありがとうございます。ヴィーガンをやってみたいけど家族がいて自分だけの食生活ができないから難易度が高いっていう悩みを持つ人は周りにも多いです。でも、もっとおおらかに取り入れるのが一番ですよ。例えば、子どもには添加物入ってないものを出すけど、旦那さんには気にせず出すとか(笑)まあ半分冗談ですけど、私も昔はガチガチのヴィーガンだったからかなり頭でっかちでしたよ。成分表も栄養素も考え過ぎてた。今でも全部確認はしますけど、ある程度はおおらかになって。「ま、いっか」と許せることは増えましたよ。

淡の間 そうなんですね!

小池 そうそう。まあちょっと今日ハーゲンダッツ食べちゃおうかな、とか。一般的なイメージだと私はもう超ストイックに思われてるので驚かれるでしょうね。けれども一つ一つ意識し過ぎていた時期ってパサパサしてたし全然楽しくなかったから。

武笠 小池さんもファーストフードとか食べますか?

小池 研究がてら食べることはありますよ。日常的には食べませんが。だから食に対して柔軟になりたいと思って今のスタイルはぺスカタリアン(※選択的)ですが、それは私にとって大きな変化。いきなりはやっぱり食べれなかったんですけど、ちょっとずつ、数品でも魚料理を食べれるようになりましたし。結局、何を食べるかと言うよりも どんな工程で作られて誰が関わっているのかが大事と言うか。そこでマイナスも相殺される気がします。

武笠 それでいいと言われるとなんだか安心します…!

小池 忙しいときは料理も大変ですが、凝ったメニューではなくても、野菜にサンペダル塩をかけて食べるようなシンプルな料理でもいい。あんまり頭でっかちになりすぎない方がいいですね。お子さんとご飯食べる時はヴィーガンじゃなくても、自分1人で食べる時だけ取り組んでみるとか。それだけでも感覚は敏感になると思いますよ。何を選んで食べるかを楽しんでみてください。

淡の間 柔軟な視点、とても勉強になりました!

武笠 ありがとうございました!


SUNPEDAL (YOKO KOIKE)
food creator

ヴィーガンレストラン、ケータリング「SUNPEDAL」主宰。食への探究心が募り、渡英、専門商社、ヴィーガンレストランでサービススタッフを経験後、2018年に独立。世界や日本各地の生産者や面白い人々を巡り、旅の記憶と香りを織り交ぜたヴィーガンの無国籍なフュージョン料理を提供。撮影現場をはじめとした法人向けのケータリングから、地方の生産者と都心を繋ぐPOPUPイベント、オリジナルスイーツ”エナジーボール”の販売、2022年2月に新宿伊勢丹でPOPUP「さんぺだる旅まるしぇ」を実施。オリジナル調味料「さんぺだる塩」をリリース。2024年秋、墨田区にSUNPEDALアトリエ兼レストランを構え、自らキュレーションしたイベントやレストラン営業を本格的にスタート。
 
関西テレビ「セブンルール」に出演(2022年5月10日放送)。
STELLA McCARTNEY2022年サマーコレクションの一環でキノコレシピを考案、動画
コンテンツが公式ホームページ、インスタグラムで公開される。
 
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インスタグラム @sunpedal
ホームページ https://www.sun-pedal.com/

前編 パーソナル・インタビュー
文 : 淡の間
写真 : mikri