A to Z COLUMN   by aynoma 


R「 Release 」



THINGS THAT MATTERのライティング・パートナーである淡の間(あわいのま)が、ブランドの世界観との親和性を構築するキーワードをAからZまで毎月ひとつずつ紐解くコラム。

今月のテーマは、R「 Release 」。



「満月には手放しを」だとか「執着を手放そう、過去の自分を手放そう」だとか、そんな言葉を耳にするたびに少し引っかかるものがあります。まるで私たちの人生には、捨てなければならないものが山ほどあるかのように聞こえるからです。

もちろん終わった恋愛への未練や、もう自分には合わなくなった環境から離れることで、ようやく呼吸がしやすくなることもあるでしょう。けれど、英語の「Release」には、手放す、解放する、放出する、解除する、発表する、世の中に送り出すといった意味があります。

音楽家が新しい作品をリリースする。長く抑え込んでいた感情を外へ出す。緊張していた身体の力を抜く。これらもすべてリリースです。つまり、何かから自由になるだけでなく、リリースには自分の内側にあるものを自由にするという意味も含まれているわけです。手放すことと解き放つこと。この二つの方向から考えると、リリースという言葉の意味はずいぶん違って見えてきます。

そもそも手放しについて私が思うことは、単に何かを捨てることではなく「それがなくても、私は大丈夫」という状態になれることだと思っています。以前はどうしても欲しかったもの。失うことが怖くて仕方なかった関係。誰かからの評価や承認。かつての自分を支えてくれた考え方。それらが、ある日突然どうでもよくなるわけではありませんが、経験と時間を重ねるうちに、感情との距離が少しずつ変わっていく。

「あれ、もうこれがなくても大丈夫かもしれない」そんなふうに思える瞬間があります。
嫌いになったわけでも過去を否定したいわけでもない。大切だったことに変わりはないけれど、今の自分には以前ほど必要ではなくなった。これができれば、健全な手放しができたと言えると思います。そういったタイミングがたまたま満月など星の巡りのサイクルに重なることもあります。

一方で、手放そうと必死になっているうちは、まだその対象に強く意識を向けているとも言えます。捨てなければ、忘れなければ、執着をなくさなければ。そう考え続けること自体が、新しい執着になってしまうこともあるでしょう。執着しないことに執着するなんて、なかなか皮肉な話です。手放すとは、無理に何かを切り離すことではなく、それがなくても大丈夫だと思える自分に変わっていくことのはずなのに。

そう考えると、手放しは喪失ではなく、自分自身の自然な変化として捉えられます。肉体でいうところの生理現象の排泄や月経とも同じ仕組みです。排泄ともなればスムーズに喜んで進めたいと思うのに、恋人や感情や功績、他の物質ともなれば余計な感情が入ってしまう人間のエゴの難しさとは一体どう向き合えばいいのでしょう。

満月は、物事が満ちるとき。新月から育ってきたものがひとつの到達点を迎えるとき。熟した果実が枝から離れるように、十分に育った考えや感情にも、外へ出ていくタイミングがあります。それは関係を終わらせることかもしれないし、反対に、ずっと胸にしまっていた愛情を伝えることかもしれません。仕事を辞めることも、新しい仕事を発表することも「満ちること」として表されることがあるでしょう。人によってその事象は異なります。同じリリースでも、その人にとって必要な行動はまるで違うのです。

手放すべきなのは恋人ではなくその人の前で無理をしている自分かもしれない。諦めるべきなのは夢ではなく、夢の叶え方に対する思い込みかもしれない。一体、なにを手放すことで、自分自身がより良い未来へと進んでいけるのか。

あなたが今も大切に握りしめ、すがりついているものは、本当に今の自分に必要なものでしょうか。それとも、以前の自分にとって必要だったものを、習慣のように持ち続けているだけでしょうか。もしそれがなくなったとしても、今の自分なら案外大丈夫なのではないでしょうか。

反対に、ずっと胸の内にしまい込んでいる言葉や、やってみたいと思いながら先延ばしにしていることはないか。誰かの期待や評価を気にしなかったら、本当は何を表現したいのか。何を始めてみたいのか。

すぐに答えを出す必要はありません。こうした問いを持つだけでも、自分が何に縛られ、何を抑え込んでいるのかが少しずつ見えてくることがあります。

もう必要ではなくなったものを手放し、まだ十分に生きられていない自分を解き放つ。手放すことで、送り出す。それを思うと、リリースとは、何かを終わらせることだけではなく、これからの自分の未来へ自由を与えることでもあるのかもしれません。

ABOUT US

OUR STORY

生きることは息をすること。噛んだり浸したり目を細めたりしびれたりすること。ただそこに在るだけの自分の感覚を愛おしいと思えたら、還って、ただ還って、光みたいに透明になれる。

季節の色や手触りは、瞬きした途端しなやかにうつろう。その変化に頬を撫でられているようだと思う。気づいていないだけで、もしかしたらわたしたちも毎秒生まれ変わっているのかもしれない。

閃いたと思ったら甘い余韻を残して消えていく、それを追いかけていった先に何があるのだろう? そして、その“感覚のカケラ”に触れ、纏うあなたは何を感じるのだろう? 知りたいという願いは、涙が出る寸前の喉の痛みに似ている。

今この瞬間も、見つけてもらえることを願って切なく吐息を震わせているほんとうのあなたへ。この宇宙のどこかで、いつか出会える日を願って。


OUR BELIEF

“わたし” はなにを求めているのだろう──

混沌としたこの世界で大切にしなければならないのは、本当は、その問いであるはず。自分を静かに見つめてはじめて、感情は豊かに色づく。そして体の感覚がゆっくりと呼び覚まされ、空の色、空気のにおいのわずかな変化も心に響くようになる。わたしも、ともに社会に生きる人も、動物も草も海も森も、宇宙の一部。この星を巡るすべての ものと愛を通じて一体となることは、感謝に満ち溢れたとほうもなく美しい体験だ。

そこに在る何かを感じて自分の内側を見つめる、そのきっかけを多くの人に届けられたら。生きるということはあまりにも深く、あまりにも複雑な冒険だから、一緒に答えを見つけていきたい。一人ひとりの魂が満たされて、よどみなく流れる水のように循環していくとき、社会も自然も、きっとあるべき姿に戻っていくと、わたしたちはそう強く信じています。


MATTER

混沌としたこの世界で今、わたしたちが大切にしなければならないものとは何か。一人ひとりが、社会が、自然が、元のあるべき姿にゆっくりと戻っていくために。ディレクターが気になっていること、学びたいこと、深掘りしたいこと=MATTER。

お客様と共に学び・感じ・考えるきっかけとなるようなコンテンツ(記事・インタビュー)を、WEB限定のオリジナルコンテンツとしてお届けしています。